晩酌を楽しむような気持ちで日々の思いを書き綴りたいと思います。
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山崎豊子「二つの祖国」感想
この秋頃から読み始めて、遅遅として進まなかった「二つの祖国」(山崎豊子)をようやく読み終わりました。
上巻は一気に読み進められたのですが、中・下巻あたりから話が広がりすぎて、イマイチ集中できず1日2~3ページのペースで下巻の極東軍事裁判関連の記述はほとんど斜め読み&飛ばし読みでなんとか最後までたどり着きました。
二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)
山崎 豊子 / / 新潮社
スコア選択: ★★★★
「沈まぬ太陽」を読んだときも思ったのですが、山崎さんの後期の社会問題を扱った作品は、話が冗長になりすぎて焦点を充分に絞り込みきれていないように感じる時があります。
もちろん、面白いことは面白いのですが・・・
ものすごく膨大な資料にあたって、綿密な調査をした上で作品を完成させたのは読んでいても分かるのですが、調査で得られた情報を詰め込みすぎて、結果的にまとまりに欠けてしまっているのはちょっと残念。
自分がレポートや論文を作るときもそうなりがちですが、沢山の文献資料にあたると、せっかく得た情報だからと、どうしてもあれこれ詰め込みたくなるんですよね。
削ることの難しさは常日頃感じています。
そういう点では、初期の船場モノの方が小説としてのまとまりと面白さは優れているかと思います。
これまで読んだ山崎作品の中で、自分にとってのベストは「女系家族」。
船場の古い女系家族をテーマにした小説は彼女の十八番。
登場人物も他の後期の小説のように類似性はあまり無く、性格描写の描き分けやストーリー構築もしっかりできています。
鍵となる遺産相続についても、単なる資料の詰め込みではなく法律の解釈をうまく作品の中で消化して、推理小説的な緊迫感を生み出しているし、最後の大どんでん返しにつなげているところは見事だと思いました。
さて、本題の「二つの祖国」。
話はカリフォルニア生まれで日本で教育を受けた日系2世の天羽賢治とその家族を中心に進みます。
第二次世界大戦の勃発により、一家は日系人の強制収容所に入れられますが、賢治は米軍へ入隊。終戦後は、広島の原爆調査、極東軍事裁判のモニターを引き受けますが、その過程で日本とアメリカの2つの祖国の狭間で悩み苦しみ、日本人としての心を解さない妻との不和や不倫相手の原爆症による死などが重なり、うつ状態となって自殺。
この主人公の天羽賢治のキャラクターがどうも「沈まぬ太陽」の恩地元や「華麗なる一族」の万俵鉄平と被ってしまって、あまり新鮮さが感じられませんでした。
それと、物語前半の収容所時代はまだ内容的にまとまっていて面白かったのですが、その後、米軍に入隊し、フィリピン、広島、東京と舞台が移るうちに、広島の原爆と軍事裁判について書きたいがために、賢治を無理やり関わらせようとしているようで、どうもしっくりきませんでした。
例えば、賢治が日本軍に所属する弟と偶然戦場で出会ったり、賢治の浮気相手である梛子がたまたま原爆の日に広島駅に降り立つなど、ストーリー展開がどうも強引すぎる気がしたんです。
ただ、賢治をとりまく脇役たちの人物設定と彼らの相関関係が山崎作品ならではの分かりやすい構造になっていたのは良かったです。
賢治が山崎作品にありがちなタイプであるが故に、周囲の個性ある登場人物たちが、うまく引き立っていたようにも思います。
まずは、賢治のライバルともいえるチャーリー田宮。
山崎作品では真っ正直で融通の効かない浮世離れしたタイプの対比として世渡り上手で多少ダーティーな野心家タイプが登場しますが、チャーリー田宮はまさに賢治とは正反対の生き方をする世渡り上手な野心家として描かれています。
賢治と同じ日系2世でありながら、日本に対する思いは(一見)醒めたもので、ドライに割り切り、アメリカの白人社会に食い込んでいきます。
賢治の妻・エミー。
日本を全く知らずに育った日系2世で、派手でグラマー。日本的情緒など全く解さないタイプで賢治とはどう考えても波長の合わない女性なのですが、賢治の事は好きなようで、彼の浮気に嫉妬します。
賢治の元同僚で浮気相手となる井本梛子
エミーとは対照的に日本を愛する落ち着いた女性で賢治とは心の奥深い部分で共通する感性を持った人物。終戦後の日本で賢治と結ばれ将来を誓い合います。
この手のタイプの女性って結構、好き嫌いが分かれると思うのですが、私は正直、好きではありません。
一見しとやかそうに見えて、伴侶のある相手と将来を誓うなんて相当ずうずうしくないとできないと思うし、あつかましいにもほどがある!
梛子との関係は賢治にとっては、本気らしいのですが、事実は浮気なわけだし、要は略奪愛ですからね。
他の面でいくら優れていても恋愛面で不義理を働く人間を私は一切評価しないので、梛子は嫌いです。
確かに妻のエミーは軽はずみで浅はかな女だけど、決して夫を裏切ったわけではないし、もっと家庭を大事にしてという言い分も納得できるし、自分の感情に正直な彼女を、私は嫌う気にはなれません。
逆に梛子とくっついてからの賢治と梛子の身勝手さには相当ムカつく!(笑)
浮気相手である梛子とのことは真剣だと妻にぬけぬけと言う無神経ぶりにはあきれてモノが言えません。
賢治はナイーブなようでいて、プライベートでは相当面の皮の厚いところが見え隠れしているし、仕事面での融通のきかなさからも、ある意味彼が意外と鈍感な側面を持ち合わせているようにも思えてくるぐらいです。
賢治のように一本気で融通の効かない純粋な人間というのは、裏を返せば幅広い視野から周囲を見ることのできない鈍感さにつながっているように思えるのです。
むしろ、野心家のチャーリー田宮の方が一見たくましく生きているようで実は内面にものすごく複雑な思いを抱えているのが描写の端々から推測することができます。
例えば、チャーリーが故郷広島を訪れた時のこの一文。
日本人の血が流れているにも関わらず、アメリカ人の立場から冷めた目で日本人を嫌悪、軽蔑してしまう自分、それと同時に日系2世として日本人に対して持つコンプレックスと白人に対して持つコンプレックス・・・
こういうチャーリーの感情って、賢治は持ち得ないし、恐らく理解すらできないのではないかと思うのです。理解できれば多分自殺はしなかったのではないでしょうか。
こうやって書いていくと、やっぱり山崎さんの人物描写はスゴイなあと思います。
思い入れのある登場人物一人の描写を細かくすることは簡単でも、対立構図にある周辺人物をそれぞれの視点から描き分けた作品というのは、他にそうあるものではないです。
フィクションの使い方や盗作疑惑など、問題も指摘されているようですが、それを差し引いても山崎作品は読み応えがあります。
上巻は一気に読み進められたのですが、中・下巻あたりから話が広がりすぎて、イマイチ集中できず1日2~3ページのペースで下巻の極東軍事裁判関連の記述はほとんど斜め読み&飛ばし読みでなんとか最後までたどり着きました。
二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)
山崎 豊子 / / 新潮社
スコア選択: ★★★★
「沈まぬ太陽」を読んだときも思ったのですが、山崎さんの後期の社会問題を扱った作品は、話が冗長になりすぎて焦点を充分に絞り込みきれていないように感じる時があります。
もちろん、面白いことは面白いのですが・・・
ものすごく膨大な資料にあたって、綿密な調査をした上で作品を完成させたのは読んでいても分かるのですが、調査で得られた情報を詰め込みすぎて、結果的にまとまりに欠けてしまっているのはちょっと残念。
自分がレポートや論文を作るときもそうなりがちですが、沢山の文献資料にあたると、せっかく得た情報だからと、どうしてもあれこれ詰め込みたくなるんですよね。
削ることの難しさは常日頃感じています。
そういう点では、初期の船場モノの方が小説としてのまとまりと面白さは優れているかと思います。
これまで読んだ山崎作品の中で、自分にとってのベストは「女系家族」。
船場の古い女系家族をテーマにした小説は彼女の十八番。
登場人物も他の後期の小説のように類似性はあまり無く、性格描写の描き分けやストーリー構築もしっかりできています。
鍵となる遺産相続についても、単なる資料の詰め込みではなく法律の解釈をうまく作品の中で消化して、推理小説的な緊迫感を生み出しているし、最後の大どんでん返しにつなげているところは見事だと思いました。
さて、本題の「二つの祖国」。
話はカリフォルニア生まれで日本で教育を受けた日系2世の天羽賢治とその家族を中心に進みます。
第二次世界大戦の勃発により、一家は日系人の強制収容所に入れられますが、賢治は米軍へ入隊。終戦後は、広島の原爆調査、極東軍事裁判のモニターを引き受けますが、その過程で日本とアメリカの2つの祖国の狭間で悩み苦しみ、日本人としての心を解さない妻との不和や不倫相手の原爆症による死などが重なり、うつ状態となって自殺。
この主人公の天羽賢治のキャラクターがどうも「沈まぬ太陽」の恩地元や「華麗なる一族」の万俵鉄平と被ってしまって、あまり新鮮さが感じられませんでした。
それと、物語前半の収容所時代はまだ内容的にまとまっていて面白かったのですが、その後、米軍に入隊し、フィリピン、広島、東京と舞台が移るうちに、広島の原爆と軍事裁判について書きたいがために、賢治を無理やり関わらせようとしているようで、どうもしっくりきませんでした。
例えば、賢治が日本軍に所属する弟と偶然戦場で出会ったり、賢治の浮気相手である梛子がたまたま原爆の日に広島駅に降り立つなど、ストーリー展開がどうも強引すぎる気がしたんです。
ただ、賢治をとりまく脇役たちの人物設定と彼らの相関関係が山崎作品ならではの分かりやすい構造になっていたのは良かったです。
賢治が山崎作品にありがちなタイプであるが故に、周囲の個性ある登場人物たちが、うまく引き立っていたようにも思います。
まずは、賢治のライバルともいえるチャーリー田宮。
山崎作品では真っ正直で融通の効かない浮世離れしたタイプの対比として世渡り上手で多少ダーティーな野心家タイプが登場しますが、チャーリー田宮はまさに賢治とは正反対の生き方をする世渡り上手な野心家として描かれています。
賢治と同じ日系2世でありながら、日本に対する思いは(一見)醒めたもので、ドライに割り切り、アメリカの白人社会に食い込んでいきます。
賢治の妻・エミー。
日本を全く知らずに育った日系2世で、派手でグラマー。日本的情緒など全く解さないタイプで賢治とはどう考えても波長の合わない女性なのですが、賢治の事は好きなようで、彼の浮気に嫉妬します。
賢治の元同僚で浮気相手となる井本梛子
エミーとは対照的に日本を愛する落ち着いた女性で賢治とは心の奥深い部分で共通する感性を持った人物。終戦後の日本で賢治と結ばれ将来を誓い合います。
この手のタイプの女性って結構、好き嫌いが分かれると思うのですが、私は正直、好きではありません。
一見しとやかそうに見えて、伴侶のある相手と将来を誓うなんて相当ずうずうしくないとできないと思うし、あつかましいにもほどがある!
梛子との関係は賢治にとっては、本気らしいのですが、事実は浮気なわけだし、要は略奪愛ですからね。
他の面でいくら優れていても恋愛面で不義理を働く人間を私は一切評価しないので、梛子は嫌いです。
確かに妻のエミーは軽はずみで浅はかな女だけど、決して夫を裏切ったわけではないし、もっと家庭を大事にしてという言い分も納得できるし、自分の感情に正直な彼女を、私は嫌う気にはなれません。
逆に梛子とくっついてからの賢治と梛子の身勝手さには相当ムカつく!(笑)
浮気相手である梛子とのことは真剣だと妻にぬけぬけと言う無神経ぶりにはあきれてモノが言えません。
賢治はナイーブなようでいて、プライベートでは相当面の皮の厚いところが見え隠れしているし、仕事面での融通のきかなさからも、ある意味彼が意外と鈍感な側面を持ち合わせているようにも思えてくるぐらいです。
賢治のように一本気で融通の効かない純粋な人間というのは、裏を返せば幅広い視野から周囲を見ることのできない鈍感さにつながっているように思えるのです。
むしろ、野心家のチャーリー田宮の方が一見たくましく生きているようで実は内面にものすごく複雑な思いを抱えているのが描写の端々から推測することができます。
例えば、チャーリーが故郷広島を訪れた時のこの一文。
「他の二世たちのように、父祖の国、日本へ来ても、自分には何一つ、家族的なしみじみとした懐かしさを覚えるものがない。むしろ、思い出したくないことばかりだった。
それにもかかわらず、救いようのない憤りがこみ上げてくる。チャーリーは矛盾する複雑な気持ちに、われながら戸惑った。」
日本人の血が流れているにも関わらず、アメリカ人の立場から冷めた目で日本人を嫌悪、軽蔑してしまう自分、それと同時に日系2世として日本人に対して持つコンプレックスと白人に対して持つコンプレックス・・・
こういうチャーリーの感情って、賢治は持ち得ないし、恐らく理解すらできないのではないかと思うのです。理解できれば多分自殺はしなかったのではないでしょうか。
こうやって書いていくと、やっぱり山崎さんの人物描写はスゴイなあと思います。
思い入れのある登場人物一人の描写を細かくすることは簡単でも、対立構図にある周辺人物をそれぞれの視点から描き分けた作品というのは、他にそうあるものではないです。
フィクションの使い方や盗作疑惑など、問題も指摘されているようですが、それを差し引いても山崎作品は読み応えがあります。
by icewine5
| 2007-12-06 23:32
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